失敗ばかりの先に。神戸で「チキン南蛮といえばこの店」になるまでの26年 | 港町MOTHER

失敗ばかりの先に。神戸で「チキン南蛮といえばこの店」になるまでの26年 | 港町MOTHER

失敗ばかりの先に。神戸で「チキン南蛮といえばこの店」になるまでの26年 | 港町MOTHER

料理経験ゼロで開業、1年目は料理が出せず、お客さんが帰る。それでも諦めなかった店主・徳冨さんが、神戸で「チキン南蛮といえばこの店」になるまでの物語。

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頼んだ料理が、1時間半待っても出てこない。

ゴールデンウィークの真っ只中。店内は満席。でも、厨房に立っているのは料理経験ほぼゼロの店主。オープンしたばかりで雑誌には掲載され、お客さんは次々とやってくる。でも、料理が出せない。

怒って帰っていく光景を、ただただ見ているしかなかった。

「お金も人も失敗しかしてない」

カウンター越しに、店主の徳冨さんがそう笑います。

その店は、この場所で26年続いている。今でこそ神戸で「チキン南蛮といえばこの店」、行列もできる人気店。でも、そこに至るまでの道のりは、失敗と試行錯誤の連続でした。

徳冨さんが語る、二宮一筋・飲食店26年の物語です。

料理は出ず、客は帰る。絶望の1年目。

神戸で店を始める前、大阪で3〜4年、飲食店のマネージャー職をしていた徳冨さん。企業で人を使い、数字を見て、現場を回す。そんな経験があったから、「行ける!」と思ったそうです。

29歳の頃、初めての店を神戸でオープンしました。

「料理出来んまま、料理人雇ってオーナーとしてオープンしたのが初め」

自分は遊んで、雇った料理人に任せておけばいい──そんな甘い考えでした。でも、現実は甘くありません。1年も経たないうちに、雇っていた料理人は離れていきました。

「もう1年せんうちに、雇ってるんやめてもうて。これちょっと自分でやらんと、もう人使うんは無理やな」

特にきつかったのが、ゴールデンウィーク前に辞めてしまったこと。書き入れ時に、料理人がいない。

「ゴールデンウィークから一人で。そもそも料理出てこうへん。1年目やし、まだ雑誌とか出とうから、お客さんは結構来てくれてて。来たぶんクレームみたいな」

料理が出ない。お客さんは怒って帰る。またお客さんが来ても、やっぱり料理が出せない。

「酷かったもん、食べログとかあったら1年で潰れてる。」

当時はSNSがなかったのが救いでした。料理経験はゼロではないけれど、ほぼ素人。そこから徐々に料理を覚えていった2年目が、本当のスタートでした。

何屋か分からない店に、看板が生まれた日

「アルバイトさえも、どんな店なんって言われても説明できない」

オープンから2年ほどは、何屋なのか分からない店。

売りがない。

このままではダメだ──そう思っていた時、口コミで「チキン南蛮が美味しい」と言われるようになっていました。

「なんか口コミでお客さんが来よる時で、チキン南蛮美味しいって。この辺に他なかったから、やった時点で一番なれるわ思て」

3年目、チキン南蛮を看板メニューにしました。

「割とそのチキン南蛮屋とかできるけど、意外とみんな潰れるから、続かんというか結構面倒くさい。唐揚げと違って、間に何手間か入るし」

手間がかかる。だから続かない。それが、逆にチャンスでした。看板が決まった。あとは、納得のいく味をどこまで突き詰められるか──。

味が決まった瞬間──スタッフの一言

最初は普通のキッコーマンの醤油を使っていました。砂糖を入れて甘みを調整していたものの、「なんかパッとせんな」と思っていた頃。ある時、九州出身のアルバイトの子に言われたのです。

「なんでフンドーキン使わないんですか?」

フンドーキン──九州では家庭に必ずある甘口醤油。関西では当時、ほとんど流通していませんでした。

「あっちにはこれが絶対家にある。めちゃくちゃ甘いで、甘口じゃないやつでも甘い」

通販で取り寄せて使った、その瞬間、すべてが変わりました。

「これを使うと砂糖を入れんでいいから。前は普通の関西って醤油しょっぱいやん。それで砂糖入れとってんけど。なんかパッとせんなって思ってたところにこれ使ったらピタっと来たから」

ピタッと来た──

フンドーキンの甘口醤油をベースにしたタレが、熱々の鶏肉に絡みつく。そこに自家製のタルタルソースがたっぷりとかかり、新鮮な野菜が彩りを添える。

一口食べれば、中は驚くほどジューシー。甘みが鶏肉の旨みを引き立て、タルタルソースのまろやかさが全体をやさしく包み込む。

チキン南蛮はもともと九州の料理。ならば、九州の醤油で。そうして、港町MOTHERの味が決まりました。

昼に満席になるまで、5年

看板メニューが決まり、味が確立しても、すぐにお客さんが押し寄せるわけではありませんでした。

「昼、坊主はないけど1人2人とかあったもん。まだ独身やったし何とかやっていけたけど」

昼に満席になるまで、5年。開店当初は、昼にお客さんが数人しか来ない日もありました。それでも、やめなかった。料理人の知り合いに頼み込んで、休みの日はフレンチの厨房に潜り込んだり、流行っている居酒屋で教えてもらったり。そうやって少しずつ、料理を覚えていきました。

「ほんとにSNSとかなくてよかった」

そう言いながら、厨房で振り返る徳冨さん。その目には、あの頃の苦労がありありと浮かんでいるようでした。

地域とのつながり

二宮では年に一度、5月4日にお神輿を担ぎます。年々、担ぎ手は減っているそうです。

「ええときは70人ぐらいいたのに、今はもう30〜40人しか集まらない。しんどいなー言いながら担いでて、お店やってるところがその日だけ昼間お休みして集まれば、普通に集まるしとか」

徳冨さん自身、借金を抱え、厳しい時期があったと語ります。でも、神社のお祭りに参加したり、近所の店と付き合い始めてから、軌道に乗り始めました。

「たまにマル井さんで肉買うたりとか、アサヒ屋なんかも全員顔見知りやしみたいな」

特別な宣伝をしたわけじゃない。けれど、街の輪の中に一人の人間として混ざっていくことが、結果として「港町MOTHER」をこの地域に定着させていきました。

”盛り上げる”とは

26年間、この場所でやってきました。その間、街は少しずつ変わり、新しい店も増えてきた。でも、徳冨さんは「積極的に街を盛り上げよう」とは思っていないと語ります。

「客観視というか世代が違うというか、若い子はすごいなみたいな。来たら受け入れるけど、こっちから行って仲良くなろうとかはないかな」

二宮は「街」ではなく「地域」。まだ地元のおっちゃんおばちゃんがウロウロしている。そういう人たちが嫌がることはしたくない。

「なんか変に若い子ばっか増えたなとか思われたら嫌やし。もっと盛り上げるっていうか、上手いように賑わってったらいいな、みたいなんはあるんやけど」

過去に何度も、外から来た企画会社が「盛り上げよう」と声をかけてきました。でも、だいたいゴミ拾いから始まって、イベント一発打って、周りが乗ってこないから終わる──そんなパターンを何度も見てきたそうです。

「無理に盛り上がろうとするんやなくて、若い子がやって勝手に賑やかになるのは、しょうがないことやから全然いいかなと思って。無理くりやなくて、自然な感じで」

近所のおじいちゃんおばあちゃんが集まる店もあって、若い子が行く店もあって。飲食店だけじゃなくてもいいし、かっこいい服屋さんとかもあってもいいし、謎にビリヤード場とか遊べるところもあったらいい。

「みんなすぐオシャレなバルを作りたがるから。また同じようなバルできとう」

そう笑うその顔には、この地域で続けてきた時間がにじんでいました。

「現状維持です。いやほんまに、辞め時が分かれへん」

子供がまだ小学生。倒れるわけにはいかない。食材も高いし、体も壊されへん。

「若い時に自分でイベントを打ったりとかやっとったけど、もうそんなバイタリティもなくなってきたし。若い子が頑張んのを見守るぐらいしか出来ないんで。村の主として」

村の主──そう自分を呼ぶ徳冨さんは、最後にこう笑いました。

「なんかあったら聞きに来て。お金も人も失敗しかしてない。人のことでええ時も最悪な時もあったけど、今は最高のスタッフもおるし」

失敗ばかりでも、続けていれば──

変わりゆく街の中で、26年間揚げ続けてきたチキン南蛮。

今日も赤いカウンターの向こうで、徳冨さんは変わらず店に立っています。


港町MOTHER

  • 📍 兵庫県神戸市中央区琴ノ緖町5-7-4
  • 🚃 JR神戸線 三ノ宮駅東口 徒歩3分
  • ⏰ 営業時間:
    • ランチ 11:30-14:30(L.O. 14:00)
    • ディナー 18:00-22:00(L.O. 21:30)
  • 🗓 定休日: 木曜日のディナー 日曜不定休
  • 📱 Instagram: @minatomachi_mother
  • 💻 HP: https://www.minatomachimother.com/

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取材協力: 港町MOTHER

※ 本記事にはアフィリエイト広告が含まれています。

Naoki Nakayama

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