神戸・二宮商店街のすぐ近く、静かな一角。レンガの床が敷かれた入り口。ここは、店主の高井さんの両親が長年営んだ美容室を受け継ぎ、改装して生まれた「CAFE+(カフェプラス)」。
「この店が、父と母が美容室やってたんですよ。ここで。元々、38年くらい」
今も隣では、父が美容室を続けています。
CAFE+の隣にある小さな美容室「プラスα(アルファ)」。ここは高井さんにとって、単なる店舗ではなく、幼い頃から見続けてきた家族の歴史そのものです。

小学校、中学校も二宮、両親の働く姿を見て育ちました。当時の活気、お客さんとの会話、はさみの音──すべてが、この空間に染み込んでいます。
天井、レンガ、窓──できる限り残された当時の面影が、家族の歴史を静かに語りかけています。
「何かしらプラスになって帰ってほしいって思いがありますね。前向きになるとか」
高井さんが、この場所で伝えたいのは、コーヒー一杯がもたらす「気分転換」の時間。流れる毎日の中で、自分で作る自分の時間。その積み重ねが、先の自分を作る──そんな想いを込めて、今日もコーヒーを淹れています。

恐怖を知らない、飛び込んでいった日々
「恐怖。私ね、それだけはないんですよ。なんでかわかんないですけど」
新しい環境に飛び込むことへの恐怖がないと、高井さんは笑います。
「楽しさが勝っちゃう。失敗しても死なへんでしょう?っていうのが、基本的にある。やらん後悔のほうが残るっていうじゃないですか。で、我慢できへん」
高校卒業後、六甲アイランドの有名ホテルに就職。フロント、バー、キッチン──あらゆる現場を経験しました。
「その時代って、なんかキッチンの人って、めちゃ厳しくって、ホテル業界のキッチンって、ほんまに恐いイメージ」
厳格な世界。でも、高井さんは上手に入り込み、レシピを教わり、バーも手伝い、すべてを吸収します。

そして町場で働くことに興味を持ち、北野のカフェバーへ転職。20歳で間借りカフェを任され、必死で駆け抜けた日々。毎日飲み歩く中で、三宮中に人脈ができていきました。
その店のオーナーから「店ごと買ってほしい」と言われた時、やりたい気持ちはあったけれど、両親は大反対。
「親が反対してるんならやめとこと。やりたかったけど、反対してる人が、おるんやったらやめよって」
その後もフレンチのシェフ、ワインバー、保険営業と、誰かに誘われれば『じゃあ、やってみる』で飛び込み続けた。そして、たまたま辿り着いたのが難波の大型カフェでした。

「一日でめちゃくちゃカフェラテ淹れるんですよ。すごく忙しくて、そのお店が」
バリスタの大会に出場する店長の下で、ラテアートも含め、コーヒーに関する事を、徹底して学びました。そして、その店長が独立する事になり、立ち上げメンバーとして参加。料理もコーヒーもできる高井さんは、新しい店をゼロから作り上げていく。
そんな時に届いたのが、母の突然の訃報でした。
受け継いだ場所で、新しい物語を
昨日まで元気だった母が急に亡くなった時、この残された場所をどうするか。大阪で働いていた高井さんは、急いで神戸に戻り、考えました。
「もしこのまま改装していいとか言ってくれるんであれば、ここで改装してカフェやろうか、みたいな」
不動産会社に改装の承諾を得て、改装に踏み切ります。壁で区切り、父が立てるだけの小さな一人用の美容室スペースをつくりました。父は「もうやめようかな」と言っていたけれど、やめてしまえばきっとこのまま、元気を取り戻せなくなる──そう思ったからです。

「まあ、1か月に1回でもいいし、ちょっとでもいいやん、って言って」
今は父の予約は月に1回あるかないかのペースなので、他にもフリーランスの美容師にスペースを貸したりしています。通常の美容室は、レンタル料に加えて売上の何%かを取られることを知り、「それやったらここ貸したるからやったら?」と決めました。
天井、レンガの床、窓──残せるものはできるだけ残して、この場所を守り続けています。
オープンの翌年、お子さんを出産。子どもを背負いながら働き、今は8歳と4歳の双子の母です。長く支えてくれるスタッフにも恵まれ、この場所を続けてこられました。
「もう、やっちゃったって感じですよね、閉められへん。守らなあかんなって変な使命感がね」
家族が、それぞれの形で
この場所には、高井さんの家族が深く関わっています。
妹さんは革職人。元々東京でグラフィックデザインをしていましたが、母が亡くなって神戸に戻り、革の仕事を始めました。最初はCAFE+の小さなスペースで立ち上げましたが、神戸セレクションに選ばれ、今では各地の百貨店に出品したり、メディアにも出たりで、現在は、湊川の路面に店舗を構えています。
「元々は牛革でしたが、今は、鹿革もやってるんですよ。害獣駆除って言ってやってるけど、お肉になったりもしてるけど、それはほんまに一部でほとんどが殺されてその辺に放られて山積みになってて。そういうのを活かしたいっていうか、ちゃんと「しまつ」するとゆう事で始めたみたい」
店内のコースターは、妹さんが作ったもの。

そして、お兄さんは魚の仲買人で市場に卸す仕事をしています。店を始める時、名前を何にしようか考えていたら──
「ここCAFE+やから、お兄ちゃんはお魚プラスにするわ!って言って。3秒で決めてた」
「ほんまにびっくりした。そんな可愛い名前でいいの?お魚プラスって何なん、みたいな。なんとか水産みたいなんじゃないん?みたいな」
「プラスα」から始まり、「CAFE+」、そして「お魚プラス」。家族みんなが、同じ「+」の旗印の下に集まっています。

場所が主役、自分は黒子
「こだわりないんですよ。別に私じゃなくてもいいし、ただここにあればいい」
CAFE+をどんな店にしたいか。そう尋ねると、高井さんは笑いながらそう答えます。高井さんにとって最も大切なのは「自分を表現すること」ではなく、「この場所、空間を残し続けること」でした。
理想を詰め込むのではなく、現実から逆算する。ガスが通っていない、子育てもある。そんな制約の中で選んだのが、コーヒーとバケットサンドでした。
「やりたいことをやるよりも、この物件で続けられることを」

フレンチとバリスタが出会う場所
カウンターに並ぶバゲットサンド。パリッとした表面に、厚みのあるローストポーク。
しっかりとボリュームはあるのに、肉の存在感がきちんと伝わってくる。玉ねぎソースの甘みと酸味が、ローストポークの旨みを引き立てます。
きめ細かな泡の上には、ふわりと浮かぶうさぎのラテアート。大阪のカフェでの修行の日々が、この一杯に静かに重なっています。

この場所で日常に「+」を
高井さんが確信していること。それは、一杯のコーヒーが持つ目に見えない力です。
「美味しいコーヒーを飲むって、全然違うんですよ。なんていうんかな気分が違う、その後の気分がみんな無意識やけど、絶対違うんですよ。絶対良くなってるんですよ気分が」
流れる毎日は、過ぎていくだけならどうでもいい。大切なのは、自分で作る自分の時間。その積み重ねが、先の自分をつくっていく──高井さんはそう考えています。
それが、両親から店名とともに受け継いだ、「+」の意味。
かつては、直感のままにホテル、フレンチ、バリスタと様々な環境を駆け抜けてきた高井さん。そのすべての経験が、今は両親から受け継いだこの場所を守るために注がれています。
「コーヒー飲んだら気分ようなるんで!とりあえず飲も、みたいな」
高井さんが淹れる一杯のコーヒーは、今日も誰かの日常に、小さな「+」を添えています。

CAFE+(カフェプラス)
- 📍 兵庫県神戸市中央区琴ノ緒町4-7-9 関西ビル103(二宮商店街近く)
- 🚃 JR三ノ宮駅 徒歩約3分
- ⏰ 営業時間:11:00〜18:00
- 🗓 定休日:火曜日
- 📱 Instagram: @cafe_pls
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取材協力: CAFE+
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